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金沢地方裁判所 昭和35年(ヨ)275号 判決 1964年3月06日

申請人 鍋野正道

被申請人 高島梅松 外一名

主文

申請人の本件仮処分申請はこれを却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、申請人の申立

「被申請人らが申請人に対し昭和三五年四月一六日付でなした解雇の意思表示の効力を仮に停止する。

被申請人らは連帯して申請人に対して昭和三五年五月以降本案判決の確定にいたるまで一ケ月金一三、二一〇円の割合による金員を仮に支払え。」との判決。

二、被申請人らの申立

主文第一項同旨の判決。

第二、当事者双方の主張

一、申請の理由

1  当事者間の雇傭関係と解雇の意思表示

被申請人らは、約四〇名の従業員を雇傭して金沢市七ツ屋町三五番地において高島鉄工所を共同経営し、ウインチ等の製造をしているものである。

申請人は、昭和三二年二月頃被申請人らに雇傭され、爾来工員として勤務し、一ケ月平均金一三、二一〇円(昭和三五年四月一六日以前三ケ月の基本収入の平均)の賃金の支払を受けているものであるところ、昭和三五年四月一六日付で、被申請人らから、「(1)作業中に新聞や雑誌をときどき読みふけつていた。(2)作業中に横の者と話をしていた。(3)作業態度が不真面目である。(4)被申請人浦春次(以下単に被申請人浦と称する。)に対し、暴挙に出たから解雇する。」旨の意思表示を受けた。

2  本件解雇の無効理由

しかしながら、本件解雇は、次に述べる各理由により、無効である。

(一) 本件解雇は、準拠すべき明示の規範なくしてなされたものであるから、無効である。

即ち、被申請人らの申請人に対する本件解雇は、低能率を理由とするいわゆる懲戒解雇と呼称されるものであるが、被申請人らの経営する企業には、右懲戒解雇事由を規定した、就業規則及び労働協約はなかつたのである。そして他面理論上当然に使用者に固有の法的権利としての懲戒権を認めることは出来ないのであるから、懲戒処分は少くとも労使関係に適用ある明示の規範に基いてなされない限り、無効と解すべきものである。従つて本件解雇は、明示の規範に基かないでなされたもので、無効である。

(二) 仮に被申請人らが、固有の懲戒権を有するとしても、本件解雇は申請人の労働組合結成等正当な組合活動をなしたことを理由とするもので、労働組合法第七条第一号に該当する不当労働行為として無効である。即ち、先づ、申請人の組合活動とこれに対する被申請人らの態度を明かにする。

(1) 申請人は、昭和三二年二月頃被申請人らの経営する高島鉄工所に入所し、同三三年七月頃金沢市内に散在する中小鋳物工場の労働者を組織した全国金属労働組合石川地方本部鋳物鉄工支部の組合員となり、高島鉄工所においては、唯一人の組合員として、リクリエーシヨンの面は勿論のこと、寮生活の改善及び寮生活に対する鉄工所の不当な干渉を排し、寮生の自治の確立等に積極的に活動して来た。

(2) 被申請人らは、右のような申請人の活動に対し、最初から警戒的で且つ犯罪視し、陰に陽に不当な詮索、干渉、妨害をなし、果ては申請人に対し、退寮を命じ、さもなければ、寮を解散するという脅迫にさえ出て来たので、申請人はやむなく昭和三四年一〇月頃退寮せざるを得なかつたのである。

(3) 申請人は、右のような暗い職場を明るくするには、労働組合を結成するより外はないと考え、職場の労働者にその結成を呼びかけ、その世話人に選任されるや、中心になつて準備し、その結果昭和三五年一月一六日「高島鉄工所労働組合」が結成発足したところ、自ら同組合の書記長に就任し、その後労働協約の締結、臨時工の本工化、夏季手当年末一時金の支給、手洗場の拡張、女工員の更衣室の分離、日曜出勤の制限、結婚、忌引等の有給制等の問題について、被申請人らと数回に亘つて団体交渉をし、その結果労働協約については締結する迄にはいたらなかつたものの、臨時工は三名中一名が本工に認められ、手洗場の拡張、女工員の更衣室の分離問題は解決をみた。また昇給の件については、団体交渉をまつまでもなく、組合を結成しただけで、昭和三五年二月頃被申請人らから先手を打つて、基本給(日給)の一率金二〇円引き上げ、奨励金制度の創設(本工一、〇〇〇円、臨時工五〇〇円)を認めて来たのである。

(4) 以上のごとく、申請人は活発な組合活動を行なつてきたので、被申請人らは右組合活動を嫌悪し、機会をみて申請人の企業外排除を狙つていたところ、前記のようないわれなき解雇理由に藉口して申請人を企業より排除したもので、本件解雇が不当労働行為を構成することは明らかである。

(三) 仮に、以上の主張が理由なく、申請人に被申請人ら主張のごとき解雇理由に該当する事実が認められるとしても、それらの事由は、いずれも懲戒解雇に値するほど、重大な企業秩序違反行為ではないから、本件解雇は、懲戒解雇権の濫用であつて、無効である。

3  保全の必要

以上の次第であるから、申請人は依然被申請人らの経営する高島鉄工所の従業員たる地位を有し、その地位の確認等を求める訴訟を提起すべく準備中であるが、申請人は本件解雇により生活の危機にさらされているので、本案判決の確定をまつては、回復しがたい損害を蒙るおそれがあるため、これを緊急に排除すべく、本件申請に及んだものである。

二、被申請人らの答弁及び主張

1  答弁

申請の理由1の事実はこれを認める、同2(一)の事実は否認する、同2(二)(1)(2)の事実は否認する、同2(二)(3)の事実のうち、申請人主張の「高島鉄工所労働組合」の設立及び団体交渉の経過に関する点はいずれもこれを認める、但し昭和三五年二月頃被申請人らが先手を打つて基本給の引上げ、奨励金制度の創設を認めたのではなく、昭和三四年一二月の定時昇給を実施したに過ぎないのである、同2(二)(4)の事実は否認する、申請人の非能率は組合結成以前からのことで、そのため、被申請人らは、昭和三四年一二月頃に申請人を解雇すべくその決意をしたことがあつたが、当時組合結成中であつて、誤解される虞があつたのと、組合結成後或いは申請人が自重することを期待して、敢てこれを取止めたことさえあつたのである。

同2(三)の事実は否認する。

2  本件解雇の効力に関する被申請人らの主張

(一) 本件解雇が懲戒解雇であることは認めるが、労働基準法第二〇条所定の予告手当を供託した上、民法所定の解約権を行使した形式をとつたものである。

(二) (解雇理由)

本件解雇の理由は、次のとおりである。

本件解雇は、申請人が作業中に新聞や雑誌をときどき読みふけり、横の者と話をしたりする等その作業態度が不真面目であることの結果、著しく低能率であつたこと並びに申請人が被申請人浦に対し、暴行をなした事実があつたためになされたものである。

(イ) 先づ、前段の理由については、申請人は作業中誰よりも先に仕事を中止して夕刊を読み、週刊誌等も申請人自ら職場に持参して来て他の従業員に見せるのである。このように作業態度が不真面目であつたため、その仕事の結果にも過誤が多く、且つ通常人の四〇%しか能率があがらなかつたのである。

(ロ) 次に後段の理由である申請人の被申請人浦に対する暴行は、次の如き経緯によりなされたものである。即ち昭和三五年四月五日被申請人浦は、申請人の手許に仕上品が殆んどないので、心配になり、岡田係長に申請人の仕上げた数を尋ねたところ、同人は「鍋野は一本しかしないのではないか」と心配して言つた。そこで仕上場に行き調査したところ、二〇本程しか仕上つていなかつたので、納期の関係もあって、仕上場で誰に言うとなく、愚痴をこぼしたところ翌六日申請人からチエン、ホイルを床にたたきつけ、被申請人浦を機械に押しつけてきたのである。

上述したところから明らかのように、本件解雇は申請人の正当な組合活動を理由にして行われたものでもなく、且つ解雇権の濫用によるものでもない。

(三) 以上の次第で、本件解雇の無効を前提とする申請人の本件仮処分申請は失当として却下さるべきものである。

三、被申請人らの主張(解雇理由)に対する申請人の反論

(一)  前記二2(一)記載の事実中、被申請人らが労働基準法第二〇条所定の予告手当を供託したことは認めるが、そのような事実は本件解雇が懲戒解雇であることに消長を来すものではない。

(二)  同二2(二)記載の事実は否認する。

(イ) 申請人は、新聞については、夕刊が配達され、何かニユースが掲載されている時に同僚と一緒にのぞき込んだことがある程度であり、雑誌についても包紙として使用されていた週刊誌等の漫画を同僚と一緒にのぞき見た程度である。そして申請人の作業能率は、通常の労働者と比較して格別低能率ではなかつたものである。

(ロ) 申請人が被申請人浦に対し暴挙に出たというが、事実は昭和三五年四月五日申請人が定時で帰宅した後、被申請人浦は、仕事場において、他の従業員に対し、「鍋野は今日一日かかつてこんなもの(オリエンタル、チエンホイル)一個しか削らなかつた」とふれ歩いた。しかし、事実は一箱(二二本)と一個計二三個の仕事をしていたのである。即ち、この日申請人は午前中段取りをし、午後から研磨の仕事に着手したもので、二三個の仕事量は普通である。従つて翌六日同僚から右中傷を聞いた申請人は、事実と違う旨の抗議をしたが、被申請人浦は、これに耳を藉そうとせず、かえつて「こんな仕事ではお前の給料にもならない。」と暴言を吐くので、申請人はあまりのことに思わず憤激し、手に持つていたチエン、ホイルを床にたたきつけた。すると、被申請人浦は、矢庭に申請人の胸倉をつかみ「青二才お前などに負けないぞ」と申請人を傍らの機械へ押しつけてきた。その場は、従業員が仲に入り、一応治つたが、被申請人浦は、直ちにこの事件をとらえて、仕事場において「あいつはわしの胸倉をつかんだ。あんな奴はくびだ」とふれ歩いたということなのである。

第三、疎明<省略>

理由

一、当事者間に争いのない事実

被申請人らは、約四〇名の従業員を雇傭して金沢市七ツ屋町三五番地において、高島鉄工所を共同経営し、ウインチ等の製造をしていたこと、申請人は昭和三二年二月頃被申請人らに雇傭され、爾来工員として勤務し、昭和三五年一月一六日結成された高島鉄工所労働組合の書記長であつたこと、被申請人らは、昭和三五年四月一六日付で申請人に対し、「(1)作業中に新聞や雑誌をときどき読みふけつていた。(2)作業中に横の者と話をしていた。(3)作業態度が不真面目である。(4)被申請人浦に対し暴挙に出たから解雇する。」旨の意思表示をしたことはいずれも当事者間に争がない。

二、本件解雇は、準拠すべき明示の規範なくしてなされたものであるから、無効であるという申請人の主張に対する判断

成立に争いのない疎甲第八号証、被申請人高島梅松本人尋間の結果に弁論の全趣旨を総合すると、被申請人らが経営する高島鉄工所には、懲戒処分事由等を定めた、就業規則及び労働協約がなかつたことが認められ、右認定に反する証人駒井信雄の証言は信用し難く、他に右認定を左右するに足りる確証はない。

ところで、本件解雇がいわゆる懲戒解雇であることは当事者間に争がないところ、右認定事実に照らし、それが明示の懲戒規定に基かずになされたことは明らかである。

しかしながら、使用者は、たとえ準拠すべき明示の規範のない場合でも、本来固有の権能として企業秩序に違反した労働者に対して、企業秩序維持と正常且つ円滑な業務の運営の確保のために、企業からの排除その他の制裁を科するいわゆる懲戒権を有するものと解するのが相当である。これは、懲戒権及びその行使は、労働者を雇入れて合目的的な企業の経営内に組織づけ、経営秩序を形成維持しながら、正常な業務の運営を管理確保するという有機的経営組織体に内在する本質的要請に基いて当然使用者に認められるべきものであるからである。従つて右と反対の見解に立つ原告の前記主張は理由がない。

三、本件解雇は、不当労働行為を構成するから、無効であるという申請人の主張に対する判断

成立に争いのない疎甲第一一号証、申請人本人尋問の結果により各真正に成立したと認められる疎甲第二、第九号証、証人柿義一の証言により各真正に成立したと認められる疎甲第三号証、同第四号証の一、二、証人駒井信雄、同宮本憲治の各証言により真正に成立したと認められる疎甲第六号証、証人中野利弘、同杉浦常男、同藤野済の各証言により真正に成立したと認められる疎甲第一〇号証、証人中野利弘、同後藤真二、同杉浦常男、同藤野済、同柿義一の各証言、申請人本人の審訊及び尋問の各結果(尋問の第一回の分)を総合すると、申請人は昭和三二年二月頃被申請人らの経営する高島鉄工所に入所し、外周研磨工として働いていたが、同三三年七月頃高島鉄工所では唯一人金沢市内に散在する中小鋳物工場の労働者を組織した全国金属労働組合石川地方本部鋳物鉄工支部(個人加盟による職別労働組合である。)の組合員となつたこと、しかし申請人は、中橋工場に勤めて居た昭和三四年一月頃迄は、同鉄工所内では特に目立つた組合活動をしていなかつたのであるが、その後金沢市七ツ屋町所在の工場へ移り、昭和三四年末頃職場の従業員に労働組合の結成を強く呼びかけ、その世話人となつて準備し、その結果昭和三五年一月一六日「高島鉄工所労働組合」が結成発足したこと、申請人はその書記長に選任され、その後同組合の中核となつて労働協約の締結、臨時工の本工化、手洗場の拡張等の問題について、被申請人らと数回に亘つて団体交渉をし、その結果労働協約については、締結する迄にはいたらなかつたものの、臨時工の若干名が本工採用を認められ、手洗場の拡張問題は解決を見たこと、以上の各事実が認められる。以上認定したごとく申請人は高島鉄工所においてかなり活発な組合活動をしていたのであるが、更に進んで本件解雇の理由が申請人の右組合活動にあつたという申請人の主張については、前掲疎甲第一〇号証、証人杉浦常男、同柿義一の各証言並びに申請人本人の審訊及び尋問(第一、二回)の各結果中、右主張に副うごとき部分は後顕各疎明資料に照らし、直ちに信用することが出来ないし、その他、右申請人の主張する事実を肯認するに足る的確な疎明資料がない。却つて証人藤野済の証言により真正に成立したと認められる疎乙第一号証、証人絹川与三次の証言により真正に成立したと認められる疎乙第二号証、証人竹下文雄の証言により真正に成立したと認められる疎乙第三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる疎乙第四号証、附箋部分は被申請人浦本人尋問の結果により真正に成立したと認められ、その他の部分はその成立につき争がない疎乙第五号証の一ないし三、被申請人浦本人尋問の結果により真正に成立したと認められる疎乙第六号証の一ないし三に証人藤野済、同浜田義一、同竹下文雄、同絹川与三次、同岡田又栄、同高道三郎、同岡田正次、同和田正雄の各証言、被申請人浦本人の審訊の結果及び被申請人ら各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、次のごとき経緯から本件解雇がなされるに至つたことを認めることができる。

申請人は昭和三二年二月頃被申請人らの経営する高島鉄工所に入所し、外周研磨工として働くようになつたが、既に研磨工としての経験を有し、かなり熟達していたこと、昭和三四年一月頃迄は中橋工場に勤めていたが、その当時勤務成績は普通であつたこと、ところが昭和三四年一月頃金沢七ツ屋町所在の工場へ移つてから出勤には遅刻し勝ちとなり、更に勤務時間中に新聞や週刊誌を読んだり、無断で職場を離れて他人と話し込んだりしてその勤務態度は極めて怠慢となり、従つてその生産能率は著して低かつたこと、それが目に余るほどであつたため、申請人の上司に当る申請外岡田正次(係長)同和田正雄(職長)や同僚の申請外高道三郎(旋盤工)等は、屡々その仕事振りについて注意を与え、改善を促したが、少しも反省の色を示さなかつたこと、申請人の非能率は、次の工程である仕上工程(組立工程)の渋滞を招来し、そのため仕上工程部門から苦情が出たばかりか、結局受註先から定められている納期迄に仕事を完成出来ない虞れが出たので、仕事の一部を再下請に出さざるを得ない破目に迄陥つたこともあつたこと、申請人の懶惰な勤務態度は所内の者の目についたのみならず、納期が遅れ勝ちとなることを気遣つて督促に来た元請先である訴外株式会社石川製作所の外註課員の目にも止まるところとなり、被申請人らに対し、その点を指摘し、改まらないようなら、注文を控える旨警告を発し、或は直接申請人に注意を与えたこと、そのため高島鉄工所が注文を受けていた仕事の一部は、他の会社へ廻されるに至り、高島鉄工所としては、一部注文を失う迄に至つたこと、昭和三四年一二月頃被申請人らは、前記株式会社石川製作所の労務課長をしていた申請外浜田義一に対し、申請人の勤務成績の不良を理由とする解雇につきその意見を徴したところ、同人から当時申請人らが、組合結成中であるから不当労働行為とみられる虞れがあるから、それは慎重にするようにと答えられ、一応申請人の解雇を思い止つたこと、かくするうち、昭和三五年四月六日申請人は、同僚からその前日被申請人浦が申請人の仕事の完成量について苦情を言つていることを聞いていたので憤慨の余り、喰つてかかるようにそのことを抗議し、ギヤー軸を床に投げつけ、被申請人浦の胸倉をつかんで同人を機械に押しつけたこと、被申請人浦も「お前などになめられるか」と対抗する構えを示し、あわやと思われたが、その場は仲裁に入る者があつて、一応治つたこと、このため遂に被申請人らは、申請人に対し、昭和三五年四月一六日付で、「(1)作業中に新聞や雑誌をときどき読みふけつていた。(2)作業中に横の者と話をしていた。(3)作業態度が不真面目である。(4)被申請人浦に対し、暴挙に出た。」ことを理由として解雇する旨の意思表示をなしたこと、高島鉄工所労働組合では、申請人に対する右解雇問題につき臨時組合大会を開催し、組合としてとるべき態度を討議したが、結局一一票対一九票をもつて、組合は申請人を支援しないことを決定したこと、以上の各事実が認められる。証人後藤真二の証言により真正に成立したと認められる疎甲第一二号証、前顕証人中野利弘、同駒井信雄、同後藤真二、同藤野済の各証言、申請人本人の審訊及び尋問(第一、二回)中、右認定に反する部分は前掲各疎明資料と対比すると容易に信用できないし、且つ証人柿義一の証言により真正に成立したと認められる疎甲第二〇号証の一、二によつても右認定を左右するに足らず、他に右認定を覆するに足りる的確な疎明資料はない。

してみると、申請人には、被申請人らの主張する解雇理由に該当する事実が存在したことは明らかであり、本件解雇は右事実を理由としてなされたものと認めるのが相当である。

四、本件解雇は、懲戒解雇権の濫用であるから、無効であるという申請人の主張に対する判断

前認定に係る被申請人らが申請人を解雇するに至つた経緯によれば、申請人の行為は、正常な業務の運営をみだす悪質なものであるから、申請人に対する本件解雇が社会的に不相当とは認められず、従つて懲戒解雇権の濫用とは認められない。

五、以上の次第で、本件解雇の無効を前提とする申請人の本件仮処分申請は、すでにその前提において失当であり、従つて保全の必要性について判断するまでもなく、これを却下すべきものであるから、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山田正武 木村幸男 戸塚正二)

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